「俺たちの旅」- 鑑賞記録 – 7.三十年目の運命


青春TVドラマ「俺たちの旅」の鑑賞記録。


7.三十年目の運命

白髪の短髪、初老の風貌のグズ六(秋野太作)が井の頭公園でプラプラしているシーンから始まる。
かつてカースケ(中村雅俊)たちと共にいたアパートをうろうろしていると偶然ワカメに遭遇する。



ワカメ( 森川正太 )は東京に勤務しているが、更年期障害で悩んでいる。
オメダ(田中健)は市長を続けている。
すっかり政治家らしい風貌だ。
妹の真弓(岡田奈々)は二度目の離婚をしてオメダの地元で子供を育てながら働いている。
月日の流れと登場人物の年齢を感じさせる。

カースケはマジョリカ島にいった後、バブルのあおりでホテルがつぶれ、その後イタリアに行って消息不明という。
真弓が、仕事上の知り合いからカースケに似た人物が徳島の海部町にいると聞き、オメダとグズ六は探しに行く。
イタリアで共同出資していた男に店を売って3か月前にこの地について船の修理工をやっているという。
イタリアに来る途中で知り合った女性も一緒についてきたり、地元の人間たちとは打ち解けてくらしている。
かつてのカースケらしい生活をすごしている。
地元の人たちと、カースケ、オメダ、グズ六は久しぶりに飲む。50代の再会だ。


オメダは「10年目の運命」で、失踪して身を寄せていた女と偶然再会する。
息子が難病にあい入院している。

ある日、カースケのところに妻・聡子と息子の直也が訪ねてくる。
聡子は、カースケに対して、東京に戻らないでこんなところで暮らして、と卑下するようになじる。
かつての会社社長と社長夫人の関係はみじんもない。
息子が学校で酷いいじめをうけているようだが、母親に一切本当のことを言わない。
悩んだ末に海部にあるフリースクールに入れに来たのだ。
宮前家の英才教育として幼少から受験やしつけにエネルギーを注いできた聡子だが、無言の抵抗をする息子に挫折感を感じ、カースケに面倒を依頼し去っていく。
10年前、子育てをめぐって激しく対立して、カースケは一人、家から出ていった。
カースケが”大きな空の下でのびのび育てて“いれば、という後悔の念がよぎる。

壮年期を生き抜く大人達

「30年目の選択」は、主人公3人が50代ということで、人生の先が見えてきた大人の視点のドラマだ。
40代、50代になっても悩み多き人生の旅を続ける登場人物が、大人に向かって成長するカースケの子供と共に描かれている.

オメダは埋め立て工事を中止したことで選挙の敵も増えてきている。
そしてかつての女性の子供の治療費を支援することをマスコミにかぎつけられ、選挙中も苦戦する。

カースケは漁船に息子をのせたり話をするが、なかなか心を開かない。
いじめを受けて耐えている息子の気持ちがわからず悩むカースケ。

「家族だから分かり合えるのはうそ」(十朱幸代)節子はいう。
八木ビューティースクールの経営に邁進するが、姑に疎まれ、旦那は外で子供を作る。

人生初めての一人旅飛行機でカースケがいった
“人生って楽しいもんじゃないか?毎日毎日が楽しくないと、生きている甲斐がないじゃないか?”
というカースケの言葉に惹かれて、徳島までついてきた節子。
でも言う。
”人生が楽しいなんて思えない“。

イタリアの映画の話をするうちに、カースケが映画のように、ダンスに誘う。



ダンスをしながらカースケは語る。
”人生っていいもんですよね。毎日が楽しくないと生きていく甲斐がない。俺はそう思ってオメダやグズ六と一緒に、必死にそう思って生きてきたんです”

かつてアパートでグズ六に説教されたときに
“生きるのが楽しくない方が俺より馬鹿だよ”と言い返し、
悩みながら生きるオメダには”俺はお前みたいに人生を粗末にしたくないんだよ”と怒鳴り、
“生きていくって楽しいことだよ”と自分に言い聞かせるように語るシーンが流れる。

“俺は直也に、生きていることは楽しんだと思わせたいんです”とカースケは言う。
“自分の人生は、与えられるのではなく、この手でつかんでいくんだということを伝えたいんです”
直也は遠くから、カースケが節子とダンスをしている姿を眺めている。

自分なりの生き方がしたかった。
そのために息子が苦しんでいる、とカースケは思っている。
直也がフリースクールで、隣の子の食べ物に虫を入れたことを知る。


洋子の死

ある日、オメダが訪ねてきて、洋子(金沢碧)が死んだことを告げる。



“カースケが大切にしないから洋子さん死んじゃったのよ”と真弓になじられる。
オメダもカースケも洋子を回想する。



カースケは洋子の家に線香をあげに訪れる。
主人が対応する。
背筋をまっすぐにして正座して、洋子の遺影を見るカースケ。
主人から、洋子の遺品から大切にしまわれた砂時計を見せられ、訪ねられる。
カースケには見覚えがあった。
鳥取に洋子が南米赴任を止めようと出向いて、一緒に一泊した時に洋子に買ってあげたものだった。
洋子にとって、この鳥取は、初めてカースケが自分に会いに来てくれ、出張を行かないでとお願いされ、一泊を共にし、そしておそらく初めてカースケがプレゼントしてくれた思い出が詰まったモノだった。

カースケは10年前に洋子から「子供ができたの」と言われたのを思い出し、子供の年齢を主人に尋ねるが、子供はいないといわれる。
なんでそんなことを言ったのか?不思議に思う主人は、そういえば他に不思議なことをいったこととして
「人生はパイの取り合いだ。一人が幸せになったら、他の誰かが不幸になる。私はずっとそう思ってきた。でも本当はパイの分け合いじゃない。一人が幸せになっても誰かが不幸になることはない。」と話す。

そして病床で主人に
「私は幸せだったのよ」
と語ったという。



カースケは洋子との時間を思いながら井の頭公園を歩く。
昔の回想シーンが流れ、「少しは私に愛をください」のインストゥルメンタルの曲が流れる。
グズ六の家に行く。

カースケはグズ六に、10年前の仙台で会った時の話をする。
“子供ができた。私はしあわせになったのよ“って泣きながら言ってた。
“なんでそんな嘘をついたんだ?洋子”とカースケは言う。

”洋子さんはきっと、お前を心置きなく送り出したかったんだ。
気にかけなくていいのって“
”お前が洋子さんを不幸にしてるんじゃないか?って気にしているの、わかってたんだ“
“そんなことないの、って彼女はお前に言いたかったんだ”
グズ六はしみじみと言う。



”洋子は一生懸命、幸せだったんだと思い込もうとしていたんだと思う“
カースケは言う。
洋子の家に線香をあげにいっている間に、直也のフリースクールの定置網漁体験に参加できなかったことで、先生から”死んだ人と、息子のどちらが大切なんですか?”となじられる。

カースケは息子に“お前は両親を恨んでいるのか?親を恨んでいたら親から自由になれない。世の中を恨んでいたら、世の中から自由になれない。
俺は自由になろうと思って一生懸命生きてきた。そのために人を傷つけてきた。
でもその人は俺に、”人生は楽しんだと思え“そういって死んでいってくれたんだ”
”人生を人のせいにするな。人生を楽しいものにするのは自分の力なんだ“

しかし直也は薄ら笑いを浮かべ”お父さんは俺のことどうだっていいんだ”と言って、雨の中を走り去っていく。
そして海の中に飛び込む。溺れかかる直也に、“世の中を恨んでおぼれて死ぬ。そんなつまらない人生を送るのか?泳いで来い!”と叫ぶ。必死で岸部に泳ぐ直也に手を差し伸べ、抱きしめる。



二人を見つめる先生と節子。
二人の心に、カースケの生き方の叫びが伝わっていく。

節子は東京に帰ることになる。夜の波止場で、カースケにキスをして”これが私の旅の思い出”と言って、去っていく。

カースケは直也を、井の頭公園に連れてくる。
”俺はここで必死で生きてきた。
人生は楽しいものだと思うと必死で生きてきた。
世の中のしきたりや常識や未来への不安や、そういうものと闘って生きてきたんだ。
そんなものに負けたら、人生を楽しいと思えない。“

”俺はお前にわかってもらおうと思わない“
”俺は人を傷つけて生きてきたのかもしれない。お前のお母さんも“
“でも、それでいいのよ、と言ってくれた人がいた”
”人生をかけてそれを教えてくれた人がいた。生きていくのはすばらしいことなのよって“
必死で思いを伝えるカースケ。


洋子が残したもの

カースケは直也をオメダのいる米子へ連れていく。
オメダは、支援している子供のことがマスコミにばれ、”隠し子騒動“と騒がれている。

オメダは言う。
“今俺がかつしを頬り出したら、どうせ人間そんなもんだ、と思う。
昔母親を捨てた俺を憎んでいたはずなんだ。
人間なんてどうせ信じられない、そう思っていたはずだ”
”中傷と闘ってないと。だから今の俺たちがあるんだ。
俺は、彼女にもかつしにも人生がいいものだと思ってほしいんだ“
横で話を聞く直也。

”お前なら、俺もおなじことをするよ“
”そう思わないか?カースケ”。
この投げかけは、10年前、カースケがマジョリカ島に行くために背中を押してほしくてオメダに問いかけたシーンと同じだ。

その話をカースケが真弓に言うと、
“洋子さんにそう言いたかったんだと思う”
という。 そして
”洋子さんが最後に、あたしは幸せだったのよ、といったのは本当だと思う“と言う。

”カースケがマジョリカ島に行く最後の最後で、意見を聞きに来てくれたのが嬉しかったのよ“と。
”あの人はあたしを頼りにしてくれる。女にとって一番嬉しいことだもの“
“あたしはしあわせだったのよ、って洋子さん、無理していったんじゃない。本当に幸せだったのよ”
”男と女の幸せって結婚だけじゃない。それがわかったんだと思う“
“うらやましいなあ。あんなふうに、一生人を思い続けられるなんて”
真弓の話を聞き続ける直也。

真弓は直也に語り掛ける。
“いいお父さんじゃないけど、世の中のだれも持ってないお父さんよ”

お父さんとの旅で心が解けていく。
電車の中で、お父さんの手を握る直也。

涙ぐむカースケ。

ぐれていた高校時代。
漂流していた大学生時代。
直也はその時期に近づいていく。
直也へ伝えたい気持ちは、かつての自分に語りかけたい気持でもあるはずだ。
父親のいなかった昔の自分へ。

”俺はあいつに自分とおなじ人生を生きてほしいわけじゃないんです。
あいつだけの人生を生きていってほしい“

オメダは当選する。



当選後、カースケのところに集まるオメダ夫婦とグズ六。
オメダの奥さんが”自分を決断させたのは洋子さんだった”とカースケに伝える。

カースケが言う。
”洋子は、俺にとってもオメダにとってもただの女じゃないんです。特別な女なんです。

オメダにとって、洋子は、カースケと同様かけがえのない人間だった。
誠実な性格のオメダは、洋子と結ばれなくても、洋子に恥じない人生、カースケと比較されてもみっともなくない生き方を必死で過ごしてきた。

カースケ、オメダ、洋子の三人の友情は永遠に生き続ける。

最後のシーンでは駅前でカースケとオメダは別れる。

”会えるまで会おう。命のある限り“
と誓い合って。

(「三十年目の運命」 終わり)


2019年2月24日


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