「俺たちの旅」- 鑑賞記録 – 6.二十年目の選択


青春TVドラマ「俺たちの旅」の鑑賞記録。


6.二十年目の選択

冒頭、オメダ(田中健)と洋子(金沢碧)が偶然、空港で再開するシーンから始まる。

洋子は液晶の研究所にいる人と籍こそ入れていないが一緒になっているという。
どことなく幸せなのかどうか?は照れ隠しもあり、表情からは読み取れない。
オメダは10年前と変わらず鳥取で暮らしている。

カースケ(中村雅俊)は海外で知り合った女性と結婚し、奥さんの家の会社(宮前精工)の仕事を手伝い、今は社長になっていた。小学校受験をめざす息子が一人いる。
奥さん・聡子(石井苗子)は、自由奔放なカースケとは全くかけ離れたイメージの女性だ。
奥さんの実家の会社の工場の立て直しにやりがいを感じて打ち込んだ結果、社長になった。
40代になりビジネスマンとしては申し分のない風貌になった代償として、いつの間にか仕事や家庭に埋もれ汲々とした生活を送っている。
奥さんは、一人息子を小さい頃から英才教育を家で施し、息の詰まるようなエリート家族の雰囲気だ。

グズ六(秋野太作)は10年前と同じ会社をやっているが、浮気が原因で家を追い出され、一人アパート暮らしをしていた。
久しぶりにカースケがグズ六を訪ねると、知り合いからスペイン・マジョリカ島のホテルの支配人の仕事を打診されたという。
グズ六は浮気相手と残りの人生のやり直しを夢見て、この話に本気になり、家を追い出されたのだという。あきれて話を聞くカースケ。
ただマジョリカ島のパンフレットには惹かれる。
そして東京にきたオメダと、カースケ、グズ六は10年ぶりに再会する。

ワカメの経営する身延山の宿で皆、再会することになった。
車の中でカースケは、結婚して奥さんの家を継いで婿養子のようになって窮屈に過ごしていることを嘆くと、グズ六から「お前、変わったな」と慰められる。

10年ぶりの再会

洋子と久しぶりに再会する。

どことなく照れ臭く居心地の悪そうな沈黙があり、二人でケーブルカーに乗り込む。


10年前の鳥取での列車の別れの話を持ち出すと、洋子はカースケが駅で必死に探していたことを「知ってる」と打ち明ける。
しかし、「昔の話よ」と流す。

二人きりのケーブルカー。
真剣に向き合おうとした記憶が10年を経てほろ苦い昔話に変わる。

ケーブルカーを下りて雨の降る境内で
「私、あの頃、苦しかった。あんなに一生懸命、人を好きになれることって、もうないと思う。あんなに人を好きになれて、本当によかったって、今思ってる。」
「いいことなんて、なかったろ?」
「そんなことない。あんなに好きになれたんだもの」

 

十年目の再会とは打って変わり、二人はお互いの気持ちを吐露する。
カースケと洋子が、自分たちの過去を振り返って語る初めてのシーン。
ユーミンの「卒業写真」のインストルメンタル曲が流れ続ける。
青春時代のほろ苦くも精一杯生きた一日を語るこのシーンは、見るものに自分たちの人生を振り返らせる。

この後、一同に会する会食のシーンは一変して、険悪な状態となる。
別居中の紀子さん、そしてカースケの妻まで押しかけてきて、女性や洋子がいることを知って、修羅場となる。うろたえるカースケ。
泣きながら出て行った妻を追うカースケ。取り残される洋子たち。
家庭を持つ人間の窮屈さを強調するシーンだ。

奥さんをなだめて戻ってきたカースケが洋子と会う。
洋子から「津村君にはそんなにうろたえてほしくない。津村君。もっと堂々としていた。勝手でいい加減で、もっと堂々とした。そんな津村君が好きだったの。奥さんのやきもちでおろおろする津村君、わたし見たくない。
私の中の津村君は、そんな人じゃない」



目覚めるカースケ

自分の中の葛藤の核心を突かれたようで茫然とした表情で立ち尽くすカースケ。
洋子の強烈な言葉で、カースケは長年の自分の人生の呪縛を振りほどくように行動に出る。自分が嫌っていた平凡な人生に陥り、自分らしさを失っていたことに気づき、洋子が見ていてくれたかつての自分の姿に戻ろうと、残りの人生をかけて行動に出る。
そしてグズ六が言っていた、マジョリカ島へ行くことを決意する。

カースケは久しぶりに紀子さんに会い、グズ六との仲を修復しようとする。
「40代って人生の踊り場だっていうじゃないですか。俺の人生、このままでよかったのか?って思うことがあるのですよ。俺も今そうなんです。」というと、
紀子さんも「あたしだって、踊り場になっているのですよ」と言われる。
男だけでなく女性の苦悩も描いているのが、本編と違うところだ。
俺たちの旅と一緒に年を重ねた大人の苦悩を共有する内容になっている。

カースケは、妻にマジョリカ島の話をして、子育ての方針でも対立する。
妻が受験のため夜遅くまでしつけをしている姿に辟易し、子供を大きな空の下でのびのびと育てたいと思うようになる。

奥さんは女の臭覚で「あなたは洋子さんに会ってから変わった」となじる。
「これは俺の生き方の問題なんだ」と強く主張するカースケ。


カースケは、救いを求めるように洋子に二度会いに行く。

一度目は、会社を辞めて、マジョリカ島に行くと告げに行く。
そして力強く言う。「今の人生を変えたいんだ」。
洋子に、かつての自分に戻ったね、と言ってもらいたいと願っているようだ。
洋子が「奥さんも一緒に?」と尋ねて「簡単に拒否された」というと
洋子は「駄目よ、津村君」といい、とたんに動揺する。
それは、カースケが一人になることで、10年前と同様、一緒になる瞬間が訪れたと感じたように見える。またかつて好きだった自由奔放な男に戻ろうとするカースケに、自分も昔の状態に引き戻されたような戸惑いを覚えたように見える。そして、かつてのように、そんなカースケを諫めるのである。

「昔のままの俺で居てくれ、って洋子いったじゃないか?」
「俺は洋子に言われて、自分らしく生きないとだめだと思ったんだ」
洋子は心が揺さぶられる。
絞り出すようにして「そんなこと言っちゃだめよ。津村君」という。
洋子は明らかに動揺している。
まるで長年封じ込められた心の扉が開いたように。

間を置いて、「一人じゃないんだから。もう」。
まるで自分に言い聞かせるように言う。
怪訝そうに洋子を見るカースケ。

もちろん、妻や子供もいるのだから、という意味なのだが、カースケの決断で洋子自身も心が波打っている。

自分らしさを求め

背中を押してもらいたかったのに、反対されてがっかりするカースケ。
カースケは苦悩する。
奥さんには、洋子に相談しに行ったことがばれ、洋子のために昔の自分に戻ろうと思っていると思われ、マジョリカ島へ一緒に行く話は態度を一層硬化させる。
カースケは、彼女のためでなく、自分のために行く、と反論するが、妻には響かない。

頼りにしていたグズ六は、マジョリカ島にはいかないという。
マジョリカ島は中年が夢見る、花火のような仄かな幻想であって、実際に行動するようなものではない、と冷めた顔でカースケを諭す。
そして奥さんの家に戻るという。

グズ六のアパートでオメダと3人で再会する。
オメダは地元の義理で、市長に立候補することになり、高揚している。
グズ六は奥さんに許してもらい家に戻る。
二人は年齢に応じた人生を進もうとしている。
一方、カースケは社長の地位も家族も捨てて、自分らしさを求めてマジョリカ島へ行く決意をしている。
マジョリカ島の話を聞いたオメダは怒るが、グズ六が諭す。“カースケはいつまでもカースケなんだ。そう思いたいだろう?お前も”。
そしてカースケに向かって“お前はお前らしい生き方をすればいいんだ。
いつかきっと女房と子供もわかってくれるよ。お前にとっては大事なことだったんだということが。行ってこい、好きなところへ。これが俺がしたかった生き方だ。それを見せるのも女房や子供への責任だ。俺はお前たちのために人生を我慢して生きてきたんだ!そんなものは責任でもなんでもない。“
オメダは“カースケ。お前は昔よくいってたじゃないか?人生をそまつにするなって。人間ってもっと自由なんだって。生きていくことは楽しいことなんだって。”
この会話で三人は20年前のアパート暮らしと同じ空気となる。
三人で熱く過ごした頃の感覚を取り戻した瞬間だった。
二人の言葉はカースケにとって力強い後押しとなり、久しぶりに満足した表情を見せる。

洋子はカースケの奥さんを呼び出す。
奥さんに、カースケと一緒に生きてほしいといい、またこう告げる
「恋愛は二人で生きる二つの人生。結婚は二人で生きる一つの人生」

カースケは妻に「たとえどこにたどり着くかわからなくても、自分の手で階段を作って、一歩一歩上がっていきたいんだ。」というが妻には響かない。
妻は、洋子に言われた言葉をカースケに言う。
そして”私は貴方の生き方に自分の人生を重ね合わせることはできない”と告げられる。

カースケと洋子、最後の出会い

再び洋子に会いに行く。

「俺は洋子に言われて自分の人生を大事にしたいと思ったんだ」と訴える。
洋子は必死で反対する。
「俺は、俺らしい生き方をしたいんだ」
家族を捨ててマジョリカ島に行こうとするカースケを説得する洋子に、カースケは心からすがるように
「行けって言ってくれよ。洋子」
「あなたはカースケじゃないの、って言ってくれよ」
「勝手で、いい加減で、でも、もっと堂々としてたって。 そう言ってくれよ、洋子」
と懇願する。
洋子はカースケの心情を理解し、しばしの沈黙の後、女神のように穏やかな表情で答える。


「これが津村君らしい生き方よ。」
「それでいいのよ」

カースケはその言葉で救われ、笑みを浮かべる。

カースケが最も心を開いてすがっていたのは、昔も今も洋子だったのだ。
そのカースケの気持ちを洋子は感じ取る。
カースケは納得して、「じゃあ行くよ」と決意を決め、歩き出していく。



カースケの背後から「津村君」と大声で呼び止める。
洋子はカースケの眼をじっと見つめ、少しずつにじり寄っていく。

カースケはただならぬ雰囲気を感じ、ただ洋子の眼を見つめる。

長い時間。カメラは二人の表情を交互にアップする。


ここで、洋子が何かを告白するような雰囲気だ。
このシーンは、俺たちの旅シリーズ、本編からスペシャル版3編を通したハイライト・シーンとなる。

40代で家族を捨てて、海外へ去っていくカースケ。
自分の言葉がきっかけで、自分の励ましを求めてやってきて、かつての恋人のような姿に戻り、新たな旅に出ようとしている。
洋子は何を思ったのだろうか?
恋人は二つの人生。
そう思って生きてきた洋子が、カースケと一つの人生となる最後の瞬間と思い、洋子も自分の殻を破り、踏み出そうとしたのか?

長い時間の後、洋子の口から出たのは意外な言葉だった。
カースケと一つになるどころか、決定的に突き放す言葉だった。
「子供が。生まれるの」。静かに、ゆっくりと告げる。
驚くカースケ。励まし、自分も頑張ると誓うカースケに、洋子は次第に涙を流しながら話し始める。


「あたし、一生懸命幸せになったの。」

「10年前、津村君と別れてから、一生懸命幸せになろうと思ったの」

「だから津村君も幸せになってほしい」


絞り出すように言う洋子。
カースケの顔をまっすぐ見ながら涙をながす洋子のアップの顔は、
洋子の深い人生の旅が明らかになるシーンだ。
涙を流す洋子の顔は清らかで、俺たちの旅全シリーズを通して最も美しい顔だ。
このシーンは何度見ても泣ける。

洋子は恐らくこの10年で、離婚後必死に幸せを求めて生き続けてきたのだろう。
それは、自分のためというよりは、カースケといつか再会した時に、昔のようにカースケ
を励ましたり、ダメなところは叱ってあげたりする余裕のある女性でいたいという思いだったのだろう。
そして平凡で小さな幸せかもしれないが、何とかたどり着いていたのだ。

こうやって自分を頼って、自分らしく勝手に生きようとする姿は、まぎれもなく学生時代のカースケだ。それがとてもうれしかったに違いない。
だから心も揺れたのだろう。

人生を描く壮大な物語

俺たちの旅は、男3人の青春物語だったのだが、このシーンで、カースケと洋子の壮大な物語が浮き上がる。
一つになるだけが恋愛でなく、お互いの良さを分かりながらそれぞれの人生を歩んでいく。
欠点も魅力として許し合えるのも、一つの究極の愛の形。
最後の最後まで、洋子はその愛の形を貫いた。
赤ちゃんができたのは作り話である。
それはこのシーンのラストで、洋子が滑り台を降りるシーンでも表しているし、「三十年目の運命」でも明らかになる。

なぜ洋子は、この場面でふいに嘘をいったのだろう?言い方からして、とっさに思い付いた嘘なのだ。
この大いなる謎かけは「三十年目の運命」や見ているものに委ねられる。

カースケは自分の新しい人生のことで頭がいっぱいで、
洋子とひとしきり言葉を交わすと、振り返りもせずに早歩きで長い道を歩いていく。

洋子は数歩小走りに進みながら、カースケの後姿を見送っている。
全身から勇気を絞り出し、二つの人生で居続ける決意をして、
カースケの望み通り、背中を押してあげた。

そしてこれがカースケと洋子の永遠の別れとなるのだ。


(「二十年目の選択」 終わり)


2019年2月24日


タイトルとURLをコピーしました