記憶地獄

第一章

「赤い靴、はいてた女の子」
まるで小さな女の子の歌声が聞こえてくるようだ。

横浜・関内近辺を散策する歴史好きな少女、秋庭恭子(あきばきょうこ)。

赤レンガ界隈や横浜港大さん橋といった海が見える景色も好きだが、
日本大通りから関内の由緒ある歴史を感じさせる街並みが一番お気に入りだ。
伊勢佐木町あたりまで足を延ばして、吸い込まれるように古本屋に入ると、横浜の歴史に関する古い本を買った。
そしてまた関内の南側へ散策を続けて、喫茶店で一休みすることにした。

落ち着ける優雅なひと時。
恭子はひとしきり街を散策して、静かな喫茶店で紅茶を飲みながら本を読む時間がこの上なく好きだ。
特に歴史の本は、自分が歩いてきた街並みが当時の情景だったらと想像すると、胸が高鳴る。

この本は普通の歴史書とは違い、かなり当時の人々の生活や街で起きたことが詳細に書かれていて、知らない話ばかりだった。

「歴史に残ることは大きな史実の話ばかりで、こういう身近な日常の話はなかなか文献に残っていないのだわ」

そろそろ店を出ようとして本を閉じようとしたときのページの内容が目に留まった。
当時、関内付近を歩いていた少女達8人が、通りがかりの刃物の凶行にあい殺害された事件のことが書かれていた。

「まるで現代の通り魔殺人事件のようなことが当時にもあったのね。意外だわ」

なにやら思いもよらない興味を惹かれる事件で、胸の高まりを感じた。
しかもこの事件はこの関内近辺の出来事のようだ。
この辺りを散策する意欲がまた湧いてきた。

喫茶店を出て再び通りを歩く。
大通りよりも路地を一歩入り、雑居ビルの一群を徘徊するのが好きだ。

古い石壁の建物に目が留まった。
年代を感じさせる重厚な木製のドア。
公開の公共施設ではないようだが、ドアの奥を覗いてみた。
階段が上へと続いている。広い建物で部屋が多くありそうだ。
好奇心に駆られ、中を探検することにした。


薄暗い階段を上っていく。
さっきまで歩き回った建物とは違う雰囲気だ。
人気がまるでない。
冷たい空気感はなく、すんなりと導かれるように上がっていくと、部屋があった。
そこにはドアはなく、重厚なカーテンのような仕切りがあった。
中を覗いてみると洋館のような部屋があった。


(第二章へ続く)


 

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