第二章
中は誰もいないようだ。
関東大震災後の改築後の姿から保存されているような雰囲気だ。
数十年も放って置かれているような気もするし、数日前まで人が使っていたようにも感じる。
恐る恐る中に入ってみた。
少し部屋の雰囲気に馴染んできた。
部屋の中央にあるソファに腰かけてみる。
喫茶店で読みかけだった古本を再び読み始める。
ちょうど気になっていた事件の話の続きだ。
(本の文中)
“残虐な犯人は、多くの人だかりから少女だけを狙い、一人一人追いかけて泣き叫ぶ少女を次々に刃物で刺し殺していった。
犯人は目の周りを黒く塗り、異様な形相で犯行に及んだ“
「変質者だわ。ひどい男ね。現代のような通り魔殺人が、昔もあったのね」
“ザッ”
背後でかすかに音がした。
振り向いて立ち上がり、音のする方を凝視した。
そして壁に向かって近づいていく。
そこには黒いマントが掛かっていた。
上質な触り心地のマントだ。
思わず手に取り、羽織ってみた。
「なんだか本格的に歴史の建築物散策気分だわ」
マントを羽織ったまま、再びソファに腰かけた。
誰かにやさしく包まれているような気分だ。
先ほど本に書いてあった犯人の、”目の周りを黒く塗り”、という部分が気になった。
この黒いマントにも合いそうだ。
ソファに座り、アイラインを引いてみた。
そして鏡を見てみる。
背中がぞくっとした。
今までの自分ではない感じだ。
妙に似合っているように思える。
そして何よりも、歴史の時間に入り込んだような快感で体中が高揚していくのを感じた。
“シーン”
部屋の奥で、何か無言の”音“のような、響きのようなものを感じた。
再び立ち上がり、気配を感じた方に向かって歩いて行った。
するとそこはドアがあった。
恐る恐るドアを開けてみる。
ドアの向こうにはもう一つ、部屋があった。
(第三章へ続く)