帰路


男は冷たい夜空の下を
急いで家路に向かった
長い一日の疲れも
昼間の喧騒も
乾いた革靴の歩く音で
冷たい北風に変えていった
男はいつも
一日の最後は
暖かい灯のもとで
やすらぐのであった


女はにぎやかな都会の夜の
かけらとなってはしゃいだ
幾人もの顔に囲まれ
夜が深まるごとに
青白い光を放ち
小さな夜を作った
女はいつも
一日の最後は
一人の男のもとへ
帰っていった


ゆっくり回る大地の上を
男は静かに歩いていった
女は顔を洗い 背筋を伸ばし
窓の外を見つめていた
やがて ちっぽけな明かりの下で
男と女は向かい合った
深まっていく夜の下で
二人はじっと動かず
なかなかひとつに
なろうとはしなかった


作: 1986 / 12 / 23

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