真夜中のシャドーボクシング


うつむいた者同士が
体を寄せ合う通勤電車
ブレーキの度に
皆バランスを失い
他人にもたれかかる
電車から降りても
その繰り返しは続く
いつも大勢の他人と
息のつまるような距離で
顔を寄せ合い働いている


部屋で一人鏡に向かい
パンチを打ち続けている
誰もいない部屋でガードを固め
用心深くパンチを打っている

首に縛られたネクタイをはずし
ワイシャツのボタンをとる
硬い肩が鏡に映る
浴室に入り少し背中を丸め
湯船に浸かると
深いため息が湯気を揺らす
やがて狭い風呂場は
真っ白にぼやけ
天井から一滴しずくが
ぼとりと頭に落ちてきた


昼間の喧燥が大歓声に変わり
パンチを打ち続けている
足元はふらつきロープにもたれ
手だけは相手に向かっていく


部屋で一人鏡に向かい
パンチを打ち続けている
誰もいない部屋でガードを固め
用心深くパンチを打っている


作: 1999 / 1 / 6

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