第二話
懐かしい街をうろつく。
「懐かしいわ。
やっと叶った映画出演。
カメラの前に立つのはたった一瞬。
セリフは短い一言だけど」
「お母さんに買ってもらった服のおかげかしら。
死んだお父さんがお空から応援してくれたおかげかしら」
「これは、デビュー前にお母さんに買ってもらったもの。
絶対なくさない」
再び街を出て、川沿いを歩く。
「お母さん」
岩場の陰で体を休めていると、ふと無意識につぶやいていた。
「誰も出ないわ。お母さんはもういないし。でも、なぜほかに誰も出ないの?」
「もう帰ろう。どうやって帰ればいいのかしら?」
「あたしはもう一度、映画の世界に戻るの。帰るところはここしかないわ」
ひんやりとした冷たい風が街道に吹き抜ける秋の一日。
昼間の喧騒が去り、ネオンの光と共にいつもの夜が舞い降りてきた。
一人の少女の息吹もどこかに消え、かんざしが一つ、ぽつんと路地に残されていた。
(「映画地獄」 終。 平成二十八年十月十八日)
(モデル: なのは. twitter ID: @nanoha_0726)