No Direction Home  - 7


第七話 二人の世界の終わり

朝の通勤ラッシュの時間帯の最中、山手線全線が止まっている。
「やれやれ」
なすすべもなく電車の中で待つことを早々にあきらめ、
駅のホームに降り立つ。
どうやら10代の若者がホームにいる人間複数人を突き落としたようだ。
世も末のニュースにあきれる。
これは当分電車が動きそうにない、と踏んで、駅から一旦降り立つことにした。

改札口を出たところで携帯にメールが入った。
”今すぐにきて”
理沙からだ。
冷静な理沙らしからぬ、逼迫感のあるメッセージだ。

理沙に電話してみた。
理沙が出る。
「聞いて。
私たちにとって大切なこと。
今。
今会わないと、私たちの世界は終わりになるの」

「どうしたんだい?
会いたいよ。
理沙に会うときは、ゆっくりと会いたいんだ。
しかしなかなか思うように時間がとれないんだ。
それに、霧もひどくて体調も悪くなるし」

そういうと、理沙は声を荒げた。
「霧って何?
貴方はいつも霧のせいにする。
私には霧なんて見えないわ。
貴方はそうやっていつも私から逃げてる。
分かるのよ、私には」

「違うよ。そんなつもりじゃないんだ。いつも・・・」
「もういいわ。
なんで今、何を投げ出してでも行こう、って思ってくれないの?」

電話口でふっと何かこれ以上言いたかった言葉を飲み込んで、
ふっと息を吐いた音が聞こえた。
そして間髪を入れず、携帯電話が切れた。
何かこの世の時空のうねりに一本のすじが入ったような衝撃を受けた。

放心状態になり、流れるようにCafeに入った。
私の机の横の壁際には、’70年代にでも作られたようなレコーダーともラジオやら、
コーヒー豆を挽く機械のような古びた器具がいくつも置かれていた。
まるで30年間も40年間も年老いることを忘れて、
毎日常連の客のように静かに横たわっていた。
その機械が、何かカタカタと突然仕事を始めたかのように小さい音を立て始めた。
規則正しくカタカタという音。
どうやら私にだけ聞こえているようだ。
カタカタという音は、何か動き始めたというよりは、最後を告げるような緊張感に満ちた音だ。

「これが最後」
頑固な職人が、そう言う代わりの無言の作業音として耳の奥まで響いた。

カタカタカタ・・・

これが”モノゴト”の正しい終わり方だよ、とご丁寧に教えてくれたみたいだった。

この機械の古びた金属の表面を見ながら、理沙の顔を思い返してみた。

 

(第八話へ続く)


 

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