彷徨い – Samayoi –


第一話

広い天井。静かで厳かな雰囲気。
エレベータがフロアに到着するベルが鳴るたびに、
何か小学校時代のピアノの発表会の順番でも待つような、そわそわした気分にさせられる。
しおらしく平静を装いながらも緊張感を仄かに漂わせる。

由紀の両親は共に中学校教師。
塾やピアノに幼少から通わされ、一流女子大に進学する。
厳しい門限や些細な振る舞いを正される躾に小さい頃こそ従ってきたものの、大学入学後は、親への反発心もあり、
些細な生活習慣の干渉をやんわりとはねつけ、両親との関係は冷え切っていった。
就職活動も、もともとの両親の希望であった音楽関係や教鞭への道は一切回らず、自力で会社探しを行った。

結局、両親の敷いた線路からは外れたことの後ろ冷たさや自分の意思で生きられなかった中途半端さを振り返る。

今就職している会社は堅い社風のメーカーで、真面目な雰囲気が見込まれ役員秘書として働いている。
年配の役員や、このフロアに訪れるやはり年配のお客様にうやうやしく応対する。

そして今日も一日は暮れていく。

 

(第二話へ続く)


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