第六話
周りのOLに合わせるように婚活をはじめ、まもなく普通のサラリーマンとデートを重ねる。
しかし、愛宕ヒルズ最上階のレストランから見える夜景越しに聞く、
男のプロポーズと二人の小さな生活の夢と現実の話に、
かつて自分が逃げ出したかった小さな息苦しい家庭を作る始まりになるに過ぎないと思うと、
いたたまれなくなり、その男に別れを告げる。
「何処にも行けない」
そんな言葉が頭をよぎった。
高層ビルの谷間の下の夜道を独りで歩く。
夜景が美しく見えるのは遠いからだろうか?
自分の目の前の確かな安心は何処にあるのだろう?
金持ちの男が多いといわれる会員制SMクラブに行く。
しかしどの男たちも、性欲と虚栄心を満たしたいだけで、
冷静にみると、とても安心して身も心も捧げるような男はいないことに気付いた。
おそらく今、10年前の榊原を見たら、全く相手にしなかっただろう。
現実のSM世界の虚構と現実に気付く由紀。
それに気づいてもまだ自分の満たされない気持ちと
何処かへのよりどころを求める強い思いはなくならないことを自覚する。
もう誰かを探しているのではない。
“何処か”を探し求めるしかない。