ラスト・ワルツは永遠に


偶然の出会い

2008年の春。
当時渋谷にオフィスを構え、前年に起きた”リーマン・ショック”の影響をなんとかしのいでいた。
本業の仕事以外に虚業のような世界にも首を突っ込み、虚と実のあいまった時空間を
行き来しながら汲々としていた。
24時間虚勢を張った終わりのない生活がいつの間にか自分を追い込み、
威勢の良い外面とは別に内面はかなり破綻をきたしていた。
当時は確か、そんな時期だったと記憶している。

オフィスそばのどこかでランチをと思い、いつもと違う方向へ足をのばし偶然見つけたのが「七面鳥カフェ」だった。
ロック・カフェの雰囲気は、スーツ姿で訪れたにも関わらず、心地よい空間だった。
最初からマスターと打ち解けて雑談をしたり、
ちょうど、その数か月前から、”内面のリハビリ(当時はそんな自覚もなかったのだが)“として
はじめていた趣味のカメラ撮影のHPをマスターに紹介したりした。
何度か通ううちに、ちょうど当時、七面鳥カフェが七面鳥レーベルとして売り出していたミュージシャン、
”Blind Lemon Brothers(B.L.B.)”がブルースの本場米国はメンフィスやシカゴへライブ・ツアーを敢行している、
いう話をマスターから聞いていた。
そんな頼もしいミュージシャンが日本にいるとは、と随分嬉しく思った。

しばらくして突然B.L.B.が帰国して、七面鳥カフェでB.L.B.の千賀さんと対面することになる。
マスターと千賀さんは私のHPを見て気に入ってくれ、B.L.B.のライブ紹介ページでも作ってくれ、と依頼された。
千賀さんが旅中に古い携帯で撮った数百枚の画像をもらい、
旅の工程を何度も聞きながら、こしらえた。
(B.L.B.のライブ紹介のページ)

アメリカから帰ってきたばかりの千賀さんとの話は痛快だった。
メンフィスやシカゴのブルース・マンの話。
地元のライブ・ハウスの話等。
B.L.B.は千賀さん親子のユニットで、ハーモニカ吹きの息子さんを連れて、
地元での投げ銭やギャラが尽きるまでアメリカのライブハウスを横断して
きたのだ。
そんじゅそこらのミュージシャンとは気合の入り方が違う。
話を聞いていてすがすがしい。


Blind Lemon Brothersの千賀さん。七面鳥カフェ・ライブ。



七面鳥カフェとライブ。とても絵になる光景だった。

ある日、七面鳥カフェで二人で、たわいのない話をしてたころ、
千賀さんが私の顔を覗き込んで心配そうに言ってくれた。

”上川さん。株で大損したんだって?HP読んだよ。生活大丈夫?“
自分のHPに株で1,000万円損したことを書いたのだが、そのことを読んで心配してくれたようだ。
アメリカを巡業してすってんてんになって帰ってきた人に、思いがけずお金の心配をしてくれた。
自分も無一文に毛が生えたようなものだが、その時は、
久しぶりに親友ができたと感じて無性に嬉しかった。
虚業や虚構相まったクレージーな世界から抜け出せた、と思えた瞬間だった。

その頃は昼も夜も七面鳥カフェに入り浸っていたような状態で、
お客さんがいないときは随分と長居をしてマスターと音楽に限らず真面目な社会風潮の話等、
とめどもなく語らっていた。
マスターとは音楽だけでなく、世俗感や社会に対する考え方もよく意見がかみ合い、
話は尽きなかった。
いつの間にかマスターは、自分にとって最も信頼できるかけがえのない人となった。

“大人の青春期”というものがあるとすれば、自分にとってはまさにこの時期を言うのだろう。


暗い店内に暖色のライト。七面鳥カフェ・ワールドへようこそ。


窓の向こうには青山学院の校舎が見えた。


いつの間にか自分の指定席となった席。水牛(?)のツノの椅子は相棒だった。

入り浸りの日々

昼も夜も時間ができては七面鳥カフェに立ち寄る日々が続いた。
マスターからはコアなロックやブルース系ミュージシャンの音楽を教わり、
気に入ったものはCDを買ったりしていた。
一人入り浸っているのでは飽き足らず、時には夜カフェの会を何度か開催したり、
ロック好きの人たちが何か同じ音楽の趣向を語り合う機会があったら面白いだろうと、
“はっぴいえんどNightや”Bob Dylan・Night”等を企画したりした。
そこで当時大学生だった若者達と今に至るまで交流ができたり、
自分と同じ年代の友人もできたりした。

そこで出来た新たな友情はかけがえのない宝物だ。
何人かはその後、店の常連になり、ささやかに人の輪も広がっていった。
七面鳥カフェのロックの香りが、新旧ロック・ファンを静かに引き寄せていった。
渋谷近辺で公私ともに過ごした長い時間を振り返るときに、この時期の七面鳥カフェの暗い店内の光景が、
自分の憩いの時の象徴のシーンとして今も強く脳裏に焼きこまれている。


店内一際目立つギター、でなく実はベース・ギター。一回マスターが弾くのを聴いておくべきだった。


アルコール・リスト。像の置物がさりげなく渋い。


LPは少ないように見えて結構多い。

(Part 2へ続く)


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