人形地獄 – 2

第二話

(iii)

「ねえ、こっちにおいで」

今まで何不自由なく暮らしていた少女の人生に突然、転機が訪れた。
父親が経営していた会社が倒産寸前だと母親から聞かされた。
もう万策尽きてどうしようもないと、疲労困憊の母が涙目で話すのを、茫然としながら聞いた。

「どうしよう。私たちはどうなってしまうのかしら?」

途方に暮れ、気を失ったように椅子に倒れ掛かる少女。

(iv)

一夜明け、事態は悪化。両親は最後の瀬戸際で翻弄するも絶望的な状況に追い込まれる。
自宅も借金の抵当に入っていて財産は全て他人の元へ渡ってしまうことになった。
両親は一人娘に、明日の早朝には自宅を出るよう、身元を寄せる先を書いた手紙を残して、一足先に自宅を出て行ってしまった。
両親は自分の知らない遠くへ姿を隠してしまうようだ。
突然の家族との永遠の別れ。取り残された少女は一人、人形に向かって話しかける。
「ねえ。私は独りぽっちにになってしまったのよ。私には貴方たちしかいないの。 わかる? 私の言ってること?」

「私はもう明日には、この世から消えたいわ。貴方たちに囲まれて、このままどこか遠くへ行きたい。
今晩の月夜が永遠に明けないで欲しい。
このまま、静かに消え去りたい」

そして絶望の中、眠りにつく。

少女が眠る家の上空では、薄く切れかかった雲の彼方から、月が輝いている。
家の中では嵐の前の静けさに包まれている。
少女が寝静まった室内で、かすかな擦り音が聞こえる。

“ネエ。コッチニ・・オイデ・・・”

”ネエ。コッチニ・・オイデ・・・”
・・・

寝静まった少女は永遠の夢の中にいる。
少女は現実の世界に残ることを拒み、唯一の望みの地にいることを選んだのだ。

そこは彼女がずっと愛し続けた人形達との信頼に結ばれた世界。
人形とつないだ手に力を感じた初めての瞬間。
その時から少女は、導かれるようにして新たな幸せの世界へ旅立っていった。


(「人形地獄」 終。 平成二十八年十一月六日)


(モデル: ぴあのさん
ドール協力: √Aさん
登場ドール:
「SDシリーズ:創作造形¥³¥Ô¡¼¥é¥¤¥Èボークス・造形村」
「PARABOXドール:ⒸPARABOX・オビツ製作所」)


 

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