土に眠る少女 – 2


第二話

光沢のコーティングをしたホテルの白い壁に注ぐ、日差しの照り返しがまばゆい。
交錯する透明な光の合間から、洋子が現れた。

ホテル内の一角のイタリアン・レストランで、遅い昼食をとる土曜日の昼下がり。
彼女と過ごす週末の午後の時間がしっくり来るようになって久しい。
初対面の時のイメージの、無口でミステリアスな印象はだいぶなくなり、
自分といる時間は心から落ち着いているように見える。
自分も洋子といる時はかけがえのない時間となっている。

顔見知りとなったレストランのシェフも私たちの顔を見ると話しかけてくる。
音楽にもこだわりを持つシェフが、“それでは貴方達のために”と、Charlie Hadenの
「Nocturne」を店内にかけてくれる。このアルバムが出た時期にお互い何をしていたか?
シェフと話が弾む。その会話を楽しげに見守る洋子。
そんな時間がずっと私たちに定着してきた。

白い壁に照らされた光はどこまでもストレートに照り付ける。
見渡す限りのオブジェクト全ては眩い光に屈しているかのようだ。

そんな中、時折、洋子が見せる表情は、この力強い光でさえ届かない暗い闇雲が
心の奥底に深く沈み込んでいるように感じられる。

日常の何気ない瞬間でも同様の表情をしばしば見かける。
あえて尋ねたりしたことはないが、幸せのはざまに潜む重い十字架のような模様を
見る感触を、いつも感じている。
それは、レストランを出てゆったりとくつろいで一緒に歩き、ふと立ち止まった瞬間でさえも。

 

(第三話へ)

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