土に眠る少女


第一話

いつ頃からか、同じ夢を見るようになって久しい。
ずっと昔から見ているようで、実はここ一年ぐらいのことかもしれない。

それは遠い記憶のようであり、よくできた夢のようでもある。
夢を見ている間は、まるで実際に起きた出来事で、意識的に強く記憶の闇に葬り去った経験としか思えない。
しかし目を覚ましてから思い出そうとすると、全く実際の記憶にはないのだ。

その夢は不可思議で、かつ中身はとても深刻だ。

遠い昔に自分が少女を殺して、ある団地の軒下に死体を埋めた秘密を抱いている、という夢である。
夢の内容はいくつかバリエーションがあるが、例えばある時には警察が来て、その犯人探しをしているが、
自分はばれないでいる。
ただし内心はどきどきしながら自分が見つかりはしないか?と恐れている夢だったりする。
自分が埋めた死体の団地の軒下の光景は、なぜか自分が通っていた幼稚園のそばの団地群の一角で、
これは変わらない。
団地の軒下には陽が斜めに差し、その土の色や柔らかさの記憶も鮮明だ。

いつも危険を冒しながら、軒下の土に埋められた少女の死体を見に行く。
その少女はまるで寝ているように穏やかで、白い綺麗な顔だ。
夢の中の自分の年齢がよくわからない。自分がその少女と同じ年の時代の夢を見ているのか、
今の年齢で少女をみているのかが曖昧だ。
その辺は夢らしくもある。
夢から覚めて冷静に考えると辻褄の合わない記憶なのだが、夢を見ている間は、誰にも言えない
深刻な記憶を引きづっている自分としか思えず、とてもシリアスだ。

この夢の重さは格別で、毎回夢から覚めた直後、自分は実際に過去に誰か人を殺めたのではないか?と思い、
過去の記憶を真面目に辿ったりした。
そして寝室から出て朝日を浴び、自分が(当たり前だが)そんなことをしていないという
現実に舞い戻ると、安心して夢の重みから解放される。

他人から見れば、頭がおかしくなっているのではないか?と思われてしまうが、人間歳を重ねると、
いろいろ精神にこたえる苦労が積み重なり、心から永遠に発散されない不純物のような形で
どっしりと静かに巣くっているのだろう。
それが、何かのはずみで、観念的な形で一定の重みでのしかかり、ある決まったパターンで夢として形づけかれていくのかもしれない。

その積み重なる原因となる重みは、専ら過去の仕事のストレスから来るものだと、おぼろげながら自覚してきた。
こんな夢をみるぐらい自分の内面で壊れている部分があるのかと思うと、情けないと思うと同時に、
人間も年齢と共にいろいろな部分が朽ちてきて、幾つかは処理しきれない暗い闇の塊が一つ二つと作られ、
それらの重さのバランスを危うく取りながら生きていくのが人生か?とも思える。

(第二話へ)

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