月はどっちに出ている


今日は仕事帰りにそのまま車を飛ばして近々予定している撮影モデルと打ち合わせ。
場末の感じのデニーズで。今日で二回目の打ち合わせだ。
打ち合わせと言っても撮影の核心の話は30分ほどだ。
小物を見せ合っていくつかサンプルで構図を見せたりして、
当日に向けて高揚心を煽りあう。

十分だ。
後は徒然なるままにお互いの身の上話。
元気で生き生きとしたオーラを放つ彼女。私は彼女の目の力と、
今目の前にある新しい仕事について熱心に話す彼女の真っ直ぐな姿勢に感心しており、褒め称えていた。

今日で二回目にして聞く彼女の10代の頃の身の上話は、壮絶だった。
話し終えた彼女のオーラの光と影の対比が今の彼女の原動力である。
何もしてやれずただ話しを聞くだけの私の目の前にいる彼女が、
新しい生きがいとなる仕事を見つけ、それを今、天職として思って
真っ直ぐこれから飛び立とうとしているのが救いである。
人は恵まれた生い立ちだろうがそうでなかろうが、その後の人生は自分次第だ。
恵まれた環境でぬくぬくと育っても、ひ弱な大人に育ってぱっとしない人生を送る人間は五万といる。
一方、過酷な環境に生れ落ちても、そこでたくましさを身に着けて、
自分にあった人生を自らの力で切り開く人もいる。
全く同じ境遇に生れ落ちても、全く違う人生を歩むこともある。
そこには、自分の努力以上に、何か見えない運命の力も横たわっているように感じる。

一生懸命突っ走って生きている人にいたわりの言葉は必要はない。
過去にどんなに苦難の道を歩んだ人でも、今、希望を持っていればその人は幸せだ。



彼女を家のそばまで送り届け、一人、住宅街を駆け抜け横浜新道にのった。
夜空を見上げると半月が、生明るい高速道路の照明が連なる曲線の上に
漂っていた。
欠けた月の側に向かって幾つかの星がかすかに光って見えた。
それはまるで月に選りすぐられた幸運の星達にようにも見えた。
全ての星がこの群青色の空から落ちてきたら、ある選ばれた星だけが、
月のカーブで横たえて助かるのだろう。


そんな馬鹿なことを真面目に思いながら、車を走らせ帰路に着いた。
(終)


2009年5月1日

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