恋が着せ、愛が脱がせる


なんと色艶のあるコピーだろう。
これは遠い昔、1989年の伊勢丹百貨店のコピーだ。
百貨店といえば、現在はコンビニやショッピングモールに押され、変われない古い体質の小売業、とマスコミから非難され続けるばかりの姿に成り下がって久しい。
若い人にとっても百貨店というのは高級品ばかりで、自分の日常の買い物とは縁遠い存在だろう。

しかし1980年代、百貨店が時代をリードしていた時があったのだ。
飛ぶ鳥を落とす勢いの西武百貨店、コピーライター糸井重里が放った名コピーの数々。

1981年の「不思議、大好き。」

百貨店のコピーとして不思議感に満ち溢れていた。

そして翌年の「おいしい、生活。」

糸井重里と西武百貨店が人々の消費を駆り立て、後に”バブル”と呼ばれる80年代の栄華の時代の幕開けの象徴ともいえるコピーとなる。
懐かしいコピーの数々だが、やはり眞木準という名コピーライターが伊勢丹のコピーで作り出した数々の傑作も今見返すとどれも秀逸だ。
その中の一つがこれ。

「恋が着せ、愛が脱がせる」

今は、百貨店だけでなくどこの企業のコピーも、これだけ街を歩く人の足を止め唸らせるコピーにお目にかかる機会はめったにない。

都会のネオンの下、夜も深まり帰宅を急ぐ人の流れの中、ビルの片隅で男が女の耳元でささやく。
その愛の言葉に、夜の魔力は降りてくる。
男の力が試される瞬間だ。

愛は男の情熱の燃料となり、女の恋心に火をつける。
言葉はその着火材料であり、その後の二人の運命を彩る。

たとえそれが、わずか数時間の炎であったとしても。

名コピーを久しく見なくなった今も、言葉の力は偉大だ。


(終)
2018年7月28日

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